電気店
川原流「四方良し」の事業承継 従業員と顧客の引き継ぎ円滑に
かわはら電化
(福井県勝山市、川原勝様)
(福井県勝山市、川原勝様)
「地域のお客様へのサービスが途切れることなく、事業承継が完了できたことに安堵している」と話すのは、福井県勝山市のショッピングモール・かつやまサンプラザに店舗を構える「かわはら電化」前経営者、川原勝氏(現在は従業員)である。事業を引き継いだのは、従業員として働いていた加藤亮さんだ。 店の財産である顧客情報は、地域店向け経営ソフト「ホクホク(HOKUHOKU)」で一元管理されていた。そのため顧客の引き継ぎも円滑に行われ、事業承継をスムーズに進めることができた。

▲「勝山サンプラザ」に店舗を構える
川原流「事業承継」のポイント

▲川原勝氏(左)と新社長の加藤亮さん(右)
従業員に白羽の矢を立てた理由
かわはら電化の川原氏が事業承継を行ったのは2年前の2024年。店の未来と顧客のためにも信頼して任せられる従業員に店を託した。
その人物はお客様に慕われ川原氏が息子のように考えていた加藤さんだ。誠実で真面目な人柄に加え、お客様に対する真摯な姿勢も高く評価していた。
加藤さんに白羽の矢を立てた理由はいくつかある。加藤さんが家族とともに地域で生活基盤を築いていることも、長く店を担ってもらう上での一つの判断材料だ。お客様やのれんを預ける以上、その役割に見合う心構えと責任を備えた人物が不可欠であると考えた。
家電販売に必要な知識やスキル、技術力も申し分なかった。家電販売の能力のうち、特に評価したのはパソコンの扱いに関するスキルだ。
地方都市は高齢化率が高くITに不慣れなお客様が多い。「訪問して対応するITサポートは、地域店ならではの強みになる」と川原氏。

▲かわはら電化の店内
実際、パソコンの買い替えや設定サポートでは加藤さんの指名も多く、パソコン本体や周辺機器などの売り上げも伸ばしている。個人客中心だったかわはら電化に、法人客という新たな市場も開拓した。
川原氏によると、地域電気店では従業員による事業承継が成功しやすいという。承継者である従業員自身がお客様からの困りごとの対応、修理・工事などの段取りに熟知し、お客様の引き継ぎやメーカー・問屋との関係づくりがスムーズに運びやすいからだ。
事業承継に伴う費用負担、どうする?
問題は、在庫の引き継ぎやのれん代など事業承継に伴う費用負担が従業員側に重くのしかかってくる点である。

▲在庫の引き継ぎは10年返済で
のれんや在庫の引き継ぎにあたっては、商品をそのまま買い取るのではなく、在庫の選別や評価、価格調整を適切に実施したうえで引き継ぎ条件を整理した。
川原氏は、「加藤君の伴走者として、一緒に店を守っていきたい」と提案。後継者が無理なく事業を引き継げるよう配慮した条件を設け、その後も継続して支援していくことにした。
こうして両者は協力しながら、店の継続と発展を目指す体制を築いた。 「店を渡したらおしまいではない。お客様の引き継ぎ、メーカー・問屋さん、銀行さんとの交渉、店の経営管理など加藤君自身が経営判断できるまで応援していくことが大切だ」と川原氏は話す。
公的支援をフルに活用
弁護士などの専門家を無料で派遣
ここまでかわはら電化の従業員承継に至る経緯や経済面での工夫について紹介してきたが、単に経営者と従業員の二人三脚で成し遂げたわけではない。

▲「公的サービスを使い事業承継は心配なかった」と川原氏
事業承継をめぐっては国や県の様々な公的機関を活用した。一つは福井県の事業承継センター(事業承継・引継ぎ支援センター)だ。中小企業庁が全国47都道府県に設置した「事業承継の公的無料相談窓口」である。 (全国の事業承継・引継ぎ支援センター:https://shoukei.smrj.go.jp/center/)
ここでは、「親族内承継や従業員承継の進め方」や「承継の注意点」「事業承継計画の作成」「個人保証・借入金の扱い」などを相談できる。
承継センターでは必要に応じて弁護士や税理士、司法書士などの専門家を無料で派遣する制度を備えている。専門家への報酬そのものをセンターが負担するわけではないが、相談のための派遣は無料で利用できる。
前述した引き継ぎ条件の設計や、店の在庫・のれん代の評価など、事業承継に関わるさまざまな課題について専門的な助言を受けた。川原氏は「弁護士の存在は非常に大きかった」と振り返る。
実際に、事業承継にあたって以下のような事項について弁護士の支援を受けた。
- 従業員承継での雇用契約・役員契約の整理
- 個人保証・借入金の扱いに関する法的助言
- 株式の承継に伴う契約書の確認
- その他「契約書のリーガルチェック」や「リスクの洗い出し」など。
もう一点、店にとっては補助金の交付が大きな支えとなった。福井県では事業承継に向けた「県内企業M&A支援奨励金」を交付している。事業承継に向けて企業価値を高める取り組みを行う際に支援する制度で上限100万円が交付される仕組みだ。
川原氏は「僕と加藤君の2人に50万円ずつ100万円が支給された。その資金を当面の運転資金として活用できたことは大きな助けになった」と話している。
「ホクホク」で顧客との関係途切れなく

▲福井県勝山市の地図
経営者の世代交代に強いソフト
事業承継で最も大切なのは顧客の引き継ぎである。勝山市の人口は1980年の約3.1万人をピークに、2026年7月末現在約2万人まで減少。(出所:勝山市ホームページ「人口と世帯」)顧客の引き継ぎがうまく運ばないことには売り上げは先細りしてしまう。
同店の登録顧客数は約3,000世帯。「需要のパイが減少している現状では、緻密でキメ細かな顧客管理が非常に重要になる」(川原氏)。
そこで、売り上げや顧客管理に活用しているのが地域店向けの経営ソフト「ホクホク(HOKUHOKU)」だ。1980年代から改良を重ね、現在、全日本でんき屋ネットワーク協同組合(Dj-net) がソフトを提供している。

パソコンで顧客管理機能の画面を開くと、顧客に関する情報が次のように一元的に表示される。
- 基本情報(氏名・住所・電話番号)
- 過去の購入履歴(商品名・型番・金額・設置場所)
- 入金履歴・売掛残高(売上合計・入金合計・売掛金残高)
- 保有商品情報(商品台帳と連動)
- 見積・納品・請求の履歴(売上台帳と連動)
紙台帳の延長線上で使える設計と、シンプルな操作感でパソコンが苦手な人でも使いやすいのが特徴だ。顧客情報や販売履歴、修理履歴、保有商品などを一元管理できる。かわはら電化のように経営者の世代交代にも強いソフトといえる。
特に顧客ごとの購入履歴や入金状況、売掛残高、保有商品などを一画面で統合的に確認できるため作業効率が大幅にアップする。
例えば冷蔵庫の冷えが悪い、フリーザーが動かないといった問い合わせがあった際には、顧客画面から該当商品の型番をすぐに確認できる。電話や修理などにスピーディーに対応できるというわけだ。
従業員としてセカンドライフを満喫

▲仕事と趣味を両立
店を守りながら実現したセカンドライフ
お客様・店舗・従業員の三方良しを実現した事業承継。それだけではないもう一つの「良し」があった。従業員となった川原氏自身の人生である。
現役時代とは異なる価値観で、自分らしい人生を再構築するのが「セカンドライフ」。「少し遅れてしまったが60歳になったらお店を従業員に継いでもらい、仕事と趣味を両立できるセカンドライフを真剣に考えていた」(川原氏)。
川原氏の人生はどう変わったか。「まず、お金の心配をしなくても済むようになり、定時に帰れるようになった。何より趣味の海釣りを心ゆくまで楽しめるゆとりが生まれた」。現在、66歳の川原氏は従業員としてセカンドライフを満喫している。
川原氏は2007年7月にコスモスベリーズに加盟した。北陸3県の加盟店が集った勉強会「コスモス倶楽部北陸」の活動も川原氏にとって大切なセカンドライフ。「仲間との情報交換や懇親会は僕にとって大きな刺激になっている」と話す。