電気店

「創業96年」の老舗店に学ぶ 顧客ファーストの経営理念と経営術とは

わたでん
(江戸川区南小岩、渡邉政直社長)
  • HOME
  • 活用事例
  • 「創業96年」の老舗店に学ぶ 顧客ファーストの経営理念と経営術とは

地域店で100年続く老舗店はほんの一握りだ。そんな老舗店にあと一歩に迫っているのが今年で創業96年を迎えた「わたでん」(東京都江戸川区南小岩、渡邉政直社長)である。地域店の転廃業が止まらぬ中で、同店は独自の経営術で地域に根差した商いを継続している。老舗店の特徴はいくつかあるが、事業継続のために「業界の常識にとらわれない発想を持つこと」も大きなポイントだろう。コスモスベリーズの加盟も2009年8月と、他店に先んじて名乗りを上げた。わたでんを業界屈指の老舗店に押し上げた要因を探った。


▲わたでんの店舗外観

「老舗店」の経営理念とは
〜顧客ファースト経営を貫く〜


▲渡邉政直社長

「店は客のためにある」

東京を直撃した関東大震災が発生したのは1923年(大正12年)9月1日のことだ。復興に向けて新たな街づくりが進む中、わたでんは1928年(昭和3年)、東京・江戸川区の地に鉱石ラジオの組み立て・販売店として創業する。

同店の3代目社長の渡邉政直氏の祖父が「これからは電気の時代になる」と確信し、新たな事業を興したのだ。

今年で創業96年を迎えた同店は、家電販売界屈指の老舗店である。その長い歴史を通じて、顧客からの信頼や地域社会における重要な役割を果たしてきた。

創業以来、大切にしてきたのは「顧客第一」の経営方針と、時代に合わせて変化する経営の柔軟性である。
顧客第一の経営方針は、商業経営専門誌「商業界」主幹であった倉本長治氏の教えがベースとなっている。その基本理念は「店は客のためにある」

その他にも、倉本氏からは「経営は常に創意工夫をしていく姿勢が重要」、「繁盛とは一人のお客様に繰り返し買い物をしていただくこと」という経営学を学んだ。

経営の柔軟性という点では、1970年代後半から80年代の系列店全盛の時代、お客の幅広いニーズに対応しようと大手家電メーカーの系列店から、取引窓口を広げ「混売店」に転じた。

2009年8月のコスモスベリーズ加盟も「広範囲に及ぶ大手家電メーカーの製品を一円でも安くお客様に提供しよう」と考えたからだ。


▲コスモスが提供する特価商材を毎日チェックして店頭に

家電量販が手の届かないところで勝負

顧客第一の姿勢は現在なお息づいている。その一つが地元の不動産業者とのコラボによる「独居老人のサポート活動」だ。

65歳以上の一人暮らしの人数は男女ともに増加傾向にあり、2020年時点で男女それぞれ人口に占める割合は、男性15.0%、女性22.1%となっている(2023年版高齢社会白書)。わたでんの地元江戸川区小岩でも例にもれず、独居老人の増加は社会的な支援の必要性に迫られている。

同店は日常のちょっとした手助けが得られず、見守りや居場所の場が必要と思われる世帯をサポートする。具体的なサポート活動は、エアコンや冷蔵庫、洗濯機などの家電製品の修理サポートやメンテナンス。


▲顧客ニーズに対応した消耗品中心の品揃え

要望があれば、電球の交換や照明の取付・移動、テレビや洗濯機、冷蔵庫などの移動・設置、スイッチ・コンセントの取換、防犯カメラの設置などにも対応する。

電気製品のトラブルをどこに依頼していいのか分からない独居老人は少なくない。地域店ならではの高齢者向けのサポート活動だ。こうした活動は地元の行政も注目し、独居老人のサポートを依頼されるケースも増えているという。

「商売の原点はお客様が困っていることへの誠実で具体的な対応。地域店は家電量販やネット通販の手が出ないところで商売を、というコスモスさんのアドバイスが役立っている」と渡邉社長は話す。

小岩のわたでんといえば地元の有名店。売り場は倉庫なども含めて約40坪。その店には一日平均20人の来店客がある。

お客の楽しみの一つは同店の看板娘である由紀さん(渡邉社長の姉)との四方山話。お客の趣味や健康状態、家族構成などを知り尽くしている由紀さんが、お客との世間話に花を咲かせる。


▲看板娘の由紀さん

わたでんは近隣の高齢者が集う集会所のような役割を担っている。人々がくつろぎ交流するための、いわばサードプレイス(第3の場所)という役割である。これもまた、顧客ファースト経営の一つの在り方といえるだろう。

「ワタデン流」独自の品揃え
〜消耗品を上手に扱う「エビタイ商法」〜

お客との関係を長期にわたり維持する

一般的な地域店とわたでんの大きな違いは品揃えにある。品揃えでは、特に気を配っているのが定期的に交換や補充が必要な消耗品の取り扱い。

具体的にいえば、電球や蛍光管、乾電池、DVDやBDディスク、掃除機のフィルターや紙パック、エアコンや空気清浄機のフィルターなどの品揃えである。店内にはデジタル機器に馴染めない高齢者向けに、ラジカセ用のオーディオテープも数多く揃えている。


▲消耗品の品揃えは広く深くがモットー


▲最新の売れ筋アイテムを展示

消耗品は定期的に交換や補充が必要なため継続的な需要が生まれ、お客との関係を長期にわたって維持できるというメリットがある。

さらには、「お客様とつながりが密になり、エアコンや掃除機、洗濯機、テレビなどの提案がしやすくなる」と渡邉社長。大型家電や困りごとサービスを提案するチャンスが生まれるというわけだ。

小岩のわたでんを地域の有名店に育てるきっかけを作ったのも消耗品だ。ラジカセやウォークマンなどのブームに沸いた1980年代、同店は46分のオーディオテープの「1円セール」を展開する。

1円セールはお客の注目を集め、消耗品が安いわたでんをイメージ付けた。顧客が店に足を運ぶことで、他の消耗品やアクセサリー、テレビやエアコン、生活家電の販売につながったという。

ワタデン流「高速宅配」
〜アマゾンより早くお届け!〜


▲電話注文は素早く付箋などにメモ書き

急ぎの場合は当日夜に届ける

顧客ファースト経営を標榜するわたでんが最も力を入れているのは、ヤマダデンキ店舗に直接商品を取りに行く「直取り」である。


▲得意客は顧客マップで管理

わたでんの直取りのキャッチフレーズは「アマゾンより早く届ける」。
当日の注文は夕方に締めて、6時30分の閉店後に近くのヤマダ店舗に車を飛ばす。品物は基本的に翌日のお届けだが、急ぎの場合は当日の夜に届ける。

その日のうちに品物を届けるという取り組みは、お客からの注文を即日で届けるため、近くの秋葉原まで毎日仕入れに通っていた母の姿から思いついた。「急ぎのお客には1秒でも早く届けよう」と。

直取りの仕入れは由紀さんが担当。お客の希望の価格帯、カラー、デザイン、スペックなどを付箋にメモして、その内容を顧客台帳に書き写すという典型的なアナログ経営だ。

BFC.netによるヤマダ店舗の在庫チェックは男子従業員が担当。こうした取り組みを効率よく実施できるのは、店舗を起点に半径2〜3㎞のエリアに商圏を絞り込んでいるから。
車や自転車でも15分〜20分程度の距離なので、地域の顧客ニーズや要望に素早く対応し、家電量販やネット通販との差別化を図れると渡邉社長。


▲6,000以上のガラケーの展示が評判に

8,000を超えるフォロワー数

人員は渡邉社長を含め4人体制。地元では「商店街の端っこにガラケーがたくさんぶら下がっている怪しい店」と言われているが、渡邉社長はむしろ宣伝になると喜んでいる。


▲SNSでワタデン情報を毎日発信する

渡邉社長の日課は、毎日SNSでわたでん情報を発信すること。アカウントは4つ持っており、フォロワー数は8,000を超える。経営はアナログだが、情報発信はデジタルツールを駆使し、創業100年に王手をかける。

コスモスベリーズに
ご興味がある方へ